活用事例vol.4 安川マニュファクチャリング株式会社 能力の可視化と実践活用による学びの意欲促進
検定取得を軸にした育成の仕組みと
絶え間ない改善
機械制御に電子技術を応用した「メカトロニクス」という概念を世界で初めて提唱し、あらゆる産業の技術革新を牽引してきた安川電機。そのものづくりの基幹を担うのが、安川マニュファクチャリングだ。
同社の高度な技能・技術を支えているのは、人材育成グループが主導する育成の仕組みの絶え間ない改善だ。
(2020年4月14日発行・広報誌「生産マイスターVol.4」より抜粋)
安川マニュファクチャリング株式会社 技能系教育の体系
検定を用いて、求めるレベルに達するためのPDCA を回す
人材育成グループ長
今井 淳志氏
安川マニュファクチャリング株式会社は、2012年に人材技能育成部(現在の人材育成グループ)を設置。「全従業員一人ひとりに光を当てる」「技能・技術を習得させる」「どこでも通用する人材をつくる」の3点を方針として掲げた。
今井淳志人材育成グループ長は、自社の方針が掲げられた背景についてこう説明する(以下今井氏)。
「当社は、ものづくりの会社ですので、技能が何より重要です。また、生産性向上のために改善を進めていかないと、企業は成長しません。各現場では、古くからOJTやブラザー制度による教育が行われてきましたが、それだけだと、会社全体としてどれだけ人が育っているかが把握できません。気が付いたら技能をもった人が足りないということにもなりかねませんので、会社として知識や技能の保有状況をしっかりと把握しながら育成を進めていくことにしました」。
社員の多くを占める技能系人材の育成にあたっては、技能検定、社内技能認定、QC検定、生産マイスター検定を活用している。様々な検定合格をめざす機会を設けることで、知識の抜け・漏れを防ぎ、それぞれの階層に必要な知識やスキルに達しているかを確認することができる。
「生産マイスター検定については、リーダー層以上に3級の取得を強く推奨しています。リーダーには、職長の右腕的な存在となることを求めています。そのためには品質、コスト、納期、安全などに関する知識を身に付け、後進の指導や改善活動の中心となることが期待されます」。
さらに現場ごとの取得者数のバラつきをなくすための工夫も行っている。「経営計画の中で検定取得人数の目標を立て、毎年、どの事業所で何人と割り当て、その遂行状況も見ています。通信教育の学習状況も管理し、終わりそうにない人がいたら、上司に連絡して指導してもらいます」。
2019年現在の生産マイスター検定取得者は164人に達し、目標の100人を大幅に上回っている。
また、定量的な管理だけではなく、各級の取得者名を顔写真付きで掲示し、達成感を感じてもらう工夫も行っている。
本社の掲示板には、様々な検定の取得者数などの定量情報がグラフや表に 生産マイスター検定の取得者は、顔写真入りで掲示されているよって「見える化」されている。
日常の仕事に役立つことが成長意欲を高める
近年は、検定を受検するために必要な費用を自己負担してチャレンジする成長意欲の高い社員も増えている。生産マイスター検定3級取得後、2級や1級をめざして自ら学ぶ人が多く、現在1級合格者は2人、2級取得者は43人いる。
成長意欲が高まる背景には、日常の仕事に役立つ実感がある。今井氏は生産マイスターで学んだことが日常の仕事に役立つ例を以下のように説明する。
「生産マイスターの合格者の多くはリーダー以上なので、学習したことを仕事で使わざるを得ない状況に遭遇します。そこで習得した知識やスキルを活用して生産性が上がる体験をすることで、学ぶ意欲が高まります。また、発注元とのやり取りをする際に学んだ知識を生かして適切なやりとりができるようになるのも、学んでよかったと実感できる機会になります」。
安川マニュファクチャリングの各事業所には、技能の伝承を支える「技能道場」が設置され、日常業務や資格取得に必要な作業の手順や基準に関する画像付の解説書が数多く掲示されている。
各事業所の指導水準を高め、改善活動をレベルアップ
「技能道場」には作業台があり、指導者から技能を上達させるために必要なコツを直接指導を受けることができる。
同社では、年6%の生産性アップという経営目標を実現するため、個人、チーム、ライン全体と、多層的に改善活動に取り組み、毎年この目標をクリアしている。
改善活動のレベルアップを支える仕組みの一つが指導員の認定制度である。導入前は、前人材育成グループ長で、技能検定の普及・発展への功績が讃えられて瑞宝単光章を受章した中井ミヤ子氏(現人材育成グループ次長)が各事業所を回って指導にあたってきた。だが、中井氏が訪問できる件数には物理的に限界がある。そこで一定のレベルで認証された指導員を各事業所におくことで、独自に今までより高い頻度で改善の指導ができるようになった。また、各事業所内には「技能道場」という場も用意し、技能向上のための教育環境も整備している。
今後は、改善活動の土台として必要な生産知識を、体系的に理解している社員を増やす予定である。リーダー層以上が対象になっている生産マイスターの取得を若手にも広げることを検討している。
さらに、先に検定を取得した人が新しく学ぶ人に教える機会があると、教える側の知識定着が進むため、教育する立場の社員も増やしていくことも計画している。
現状に満足せず、次々と新たな手をうとうとしている。人を大切にし、その成長のために仕組みを改善し続けるしかけ人の存在が、同社の学習する風土の発展を支えている。
安川マニュファクチャリング株式会社
1998年設立。産業用ロボットやサーボモータをはじめとする安川電機の製品を中心に、ものづくりを支える製造アウトソーシングの専門企業。国内マザー(基幹)工場を高度な技術で支える。
売上高:142億円(2018年度)
従業員数:2,350名(2018年度)
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