活用事例vol.3 株式会社ヨコオ 実践の場や後進指導の機会を設けて学んだことを活かす
知識のインプットだけで終わらせない!
実践の場や後進指導の機会を設けて
学んだことを活かすしかけ
車載用アンテナ、回路検査用コネクタから医療用の先進デバイスまで、高度な技術を提供するヨコオ。
“マザー工場”である富岡工場では、生産部門における人材育成の軸として「生産マイスター」を活用している。
(2019年10月1日発行・広報誌「生産マイスターVol.3」より抜粋)
株式会社ヨコオ「生産マイスター」を活用した製造部門の教育のしくみ
国内の現場の育成策として「生産マイスター」を導入
「海外工場の責任者をしていたころ、国内で実践の場が少なくなっていることに危機感をもちました。当社に限らず、90 年代以降生産拠点の海外移転が進み、国内は『空洞化』とも言われていました。国内の生産現場がなくなりつつあるなか、『海外拠点の指導をする立場でありながら、自分たちで考え、改善する風土が薄くなっていないか』という問題意識がありました」
帰国後、生産部門の人材育成策の改革を推し進めてきた執行役員富岡工場長生産統括本部長の草野 信司氏は、こう語る。
執行役員富岡工場長
生産統括本部長
草野 信司氏
草野氏がまず行ったのが、中断していた QCサークル活動の復活だ。「一人ひとりが改善の気持ちを持ち、全員参加で取り組むことが何より大切」と考えた。
しかし、QC サークルのリーダー役・サポート役となるべき中堅社員は、上の年代と比べて生産現場での実践経験が不足していた。そこで、改善の前提として汎用的な基礎知識を身につけさせるため、「生産マイスター」を導入。現場のリーダーとして期待する 30 代前後を選抜し、通信教育に取り組ませるところからスタートした。
部門横断改善プロジェクトで学びを実践に
「生産マイスター」によって必要な知識を学ばせても、それだけだと受け身の姿勢になりかねない。また、学んだことを発揮する場がないと、知識も定着しない。そこで、通信教育を修了した社員で職場横断のチームを編成し、課題を与えて改善策を検討させることにした。この活動を通じて、視野が広がり、他部門との連携もよくなった。
管理本部人事総務部
工場人事総務課次長
並木 宣之氏
取り組みテーマは、当初は会社が決めていたが、自主性をもたせるため本人たちの意見を取り入れるようにした。意欲的に取り組んでもらえるよう、経営層への成果報告会も設けた。
管理本部人事総務部工場人事総務課次長の並木 宣之氏は、「生産マイスターは、当社が進める『進化経営』の取り組みの1つである『パーソネルイノベーション(人材の革新)』による人材づくりのうち、生産分野の育成策の1つの軸になっています」と説明する。
全員3級以上検定取得が目標
全員合格にむけて手厚いサポート
生産プロセス革新本部
革新推進部 次長(取材当時)
平岡 成一氏
最近では、等級が上がると該当する級の「生産マイスター」を受講するしくみを導入した。ただし、「決められた等級になったから受ける」という受け身の意識が生じないよう、上司の推薦や本人の希望があれば目安の等級に達していなくても受講できるようにした。今後は、生産部門の全員に3級以上を取得させる方針である。
検定合格に向けたサポートにも力を入れている。生産プロセス革新本部革新推進部次長(取材当時)の平岡 成一氏は、「事務局の役割は、単純にリストをつくって受けさせることではありません。全員合格するように支援していくのが、私たちの役割です」という。そのための方策の1つが、受検者の自主勉強会。合格者の経験、学習のポイントを相談できる場を提供している。
生産プロセス革新本部
革新推進部 主幹技師
掛川 聡氏
また、新入社員教育の一環としてベーシック級公式テキストを活用した社内教育を始めた。「新入社員にテキストを渡して、自分で勉強しろといっても難しいだろう」という配慮である。講師を務める生産プロセス革新本部革新推進部主幹技師の掛川 聡氏は、「同一感度の人材をつくるため、生産マイスターの内容に自分の経験則も交えて指導しています」と話す。
今では、生産マイスター1級を取得した中堅社員が先生役になっている。人に教えることでさらに理解が深まるという効果が表れている。
研修の場では一方的なレクチャーだけでなく、実践に向けたディスカッションも行われている。QC サークルや研修での学びは、生産性向上などにつながっている
外国籍社員も生産マイスター検定を取得
生産用語が4カ国語に翻訳された単語リスト。日本での研修期間が長い外国籍社員が作成し単語数は 800 ~ 900 語に及ぶ
「当社はマレーシア、中国、ベトナムに工場を持ち、今では海外生産比率が 80%を超えています」(草野氏)富岡工場においては、外国籍の高度な技術人材を積極採用・配置する「TISP(Tomioka International Specialist Park)プロジェクト」と研修生育成支援という2つの取り組みを行っている。
TISP は長期間で多岐にわたるテーマで構成されており、その一部として海外工場幹部候補生で生産に関わる人材がベーシック級や3級を受講している。
また海外研修生は生産に関する基本を理解するために、ベーシック級の取得に取り組んでいる。ただ、はじめのうちは、どうしても日本語がネックとなってしまう。そこで、研修期間がより長い先輩たちの協力を得て、日本語、ベトナム語、英語、中国語、マレー語の単語リストをつくっている。常にブラッシュアップを続け、今では単語数は 800 ~ 900 語に及ぶ。この取り組みにより合格率も上がり、多国籍の社員同士で学びあう姿も見られるようになってきた。
現場は、外国籍の社員が多数働いているグローバルな職場環境で、「TISP」と研修生育成支援という2つの取り組みに支えられている
生産部門に醸成された学習する風土
2012 年に復活した QC 活動では、近年、経営陣をも唸らせる提案が出るようになった。また、社員が「IE の勉強をしたい」と自主的に申し出るなど、学習する風土も醸成されてきている。
「目先のことにとらわれず、身につけるべきことは身につけさせる――そのために、教育の時間を確保する方針です。人間はそもそもやる気があると思っていますが、そのやる気をいかに引き出すか、まだまだ工夫が必要です」という草野氏。
前述の「IE の勉強をしたい」という要望に対しては、「1人で学ぶのは大変だろう」という思いから、他の希望者を募ってオンラインセミナーを受講できるようにした。
これからも学ぶ意欲を積極的に後押しする取り組みは続く。
株式会社ヨコオ
1922年創立。「社会に貢献し顧客の信頼に応えるため技術を蓄え、市場の創造に全員で挑戦する進化永続企業」を経営ビジョンとして、無線通信・情報伝送機器用キー・コンポーネンツと、先端デバイスを世界中の電子・電機・自動車メーカーに対して提供している。近年は、先端技術をいかし、ITSに代表される社会インフラ用システムから医療デバイスに至るまで事業領域を拡大している。
売上高:547億円(2019年3月期連結)
従業員数:7,694人(2019年3月末現在。グループ総計)
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